白山書房の本紹介


百名山登山学
石井光造=著 1,800円(本体) 四六判262ページ

どうして「日本百名山」にばかり人が群がるのか?
魅力のある山は本当に百名山しかないのだろうか。
これから山歩きを始めようとする人、
百名山を終えてどうしようかという人に、
これからも長く山とつき合う秘訣を公開!

【プロフィール】
石井 光造(いしい みつぞう)

[略 歴]
1937年さいたま市生まれ。東京教育大学理学部地理専攻卒業。教科書編集者・高校教員・日用品卸商社社長を経て山岳紀行作家に。
季刊『山の本』(白山書房)編集委員、『日本山名事典』(三省堂)編集委員。

《おもな著書》
『静かな山12か月』『心に残る山』『白神山地の山々』(共に白山書房)、
『十二支の山』『ユニーク登山術』『記念日の山に登ろう』(共に東京新聞出版局)、
『静かな山歩き』(1〜4、そしえて)、
『楽しみのぶらり歩き』(ダイヤモンド社)、
『もっと知りたい日本の山』(日本実業出版社)、
『埼玉の山を歩く』『関東平野を囲む山々』(共に、さきたま出版会)
など24冊。 

●目次

  はじめに
1

山の魅力 13

 1 山の姿 17

 2 山の色 23

 3 山の伝説 30

 4 山の歴史 33

 5 山の花 36

 6 山の峠 46

西暦高度の山 49

 行田山(山梨・静岡 2000m) 53

 茶臼山(長野 2006m) 56

 黒湯山(群馬・長野 2007m) 58

日付高度の山 61

 峠ノ神山(岩手 1230m) 64

 諏訪山(群馬・埼玉 1207m) 66

 剣山(北海道 1205m) 68

 皮投岳(秋田・岩手 1122m) 70

友名登山 73

 田中山(滋賀) 76

 高原山(栃木) 78

 白石山(群馬) 80

 岩崎山(山梨) 82

十二支の山 85

 竜馬山(山形) 88

 犬吠森(秋田) 90

 猪狩山(埼玉) 93

 甲子山(岩手) 95

一等三角点の山 97

 礼文岳(北海道) 100

 吹越烏帽子(青森) 102

 星山(岡山) 104

都道府県の最高峰・最高地点 107

 鳥海山(秋田・山形) 110

 氷ノ山(兵庫・鳥取) 112

 於茂登岳(沖縄) 114

山名注記のない山 117

 太夫峰(青森) 120

 大築山(埼玉) 122

 大御影山(滋賀・福井) 124

[山名注記のない山を探す] 126

道のない山 127

 燧岳(青森) 130

 青松葉山(岩手) 132

 塚山(群馬・埼玉) 134

[道のない山の歩き方] 136

名山を見る山と峠 137

 十勝幌尻岳(北海道) 142

 マミュル・マライ峠(チリ・アルゼンチン) 144

 ピッツ・ムルテル(スイス) 146

国の最高峰 149

 グロス・グロックナー(オーストリア) 152

 ゲルラフスキー(スロバキア) 156

 ガルホピッゲン(ノルウェー) 158

海外の知られざる山 163

 ブーフベルク(ドイツ・オーストリア) 166

 トレ・デ・セレド(スペイン) 168

 カッタナッケン(ノルウェー) 170

ヒルウォーキング 175

 ラムリーヒル(オーストラリア) 178

 ザ・レッキン(イギリス) 180

 ラノ・ララク(チリ イースター島) 182

[海外山歩きのポイント] 184

山地(国)にこだわる―ニュージーランドの山― 185

 ニュージーランド山岳一覧図 190

 ルアペフ 192

 トンガリロ 194

 ホルドワース 196

 ヒクランギ 198

 マヌオハ 200

 アーサー山 202

 トラバース山 204

 クロセス・ノブ 207

 アバランチピーク 210

 おわりに代えて 262

【データ一覧】

1 富士山一覧 (1)

2 1 白と黒の山(日本の山) (4)

  2 白と黒の山(海外の山) (6)

3 1 男と女の山(男女が対である山のみ) (7)

  2 男と女の山(雄と雌が対の山) (7)

  3 天狗の山 (8)

4 歴史の山100 (10)

5 花と温泉の山100 (13)

6 1 種類別日本の峠 (16)

  2 高度順日本の峠 (19)

  3 世界のおもな峠(高度順) (21)

7 西暦高度の山 (25)

8 日付高度の山 (27)

9 人名の山 (32)

10 十二支の山 (35)

11 一等三角点百名山 (37)

12 都道府県の最高峰と最高地点 (40)

  都道府県の最高峰一覧図 (42)

13 おもな国の最高峰 (43)

14 世界のおもな山と火山 (45)

 掲載山岳一覧 ――――――――― 表見返し

 日本の活火山 ――――――――― 表見返し

 日本の山地・山脈 ――――――― 裏見返し



はじめに

 百名山以外に山はないのか

 山を歩きたいという動機は何か。有名な山に行きたいというのでは悲しい。雄大な姿の山を眺めたい、自然を満喫したい、美しい高山植物を見たいなど、人それぞれの目的があるはずだ。日常生活から非日常の経験をするという動機もある。雑踏の街から静寂の山へ、サービスに囲まれた便利な毎日から自分の知恵と体力で過ごす一日、そんな体験をしたくて山に行く人も多い。有名な場所で、良く知られた景色を見たいというなら、観光旅行ツアーに参加すればいい。そんな山に行く人が増えているが、山を見、山を知るきっかけになるならそれもいい。深田久弥さんが選定した日本百名山の人気が大勢を占め、テレビ・新聞社・出版社の山に関する報道はこれしかないともいうべき有様だから、百名山以外は山でないという人まで出現する。中には二巡目を登っている人までいる。百名山以外に、日本には良い山がないのだろうか。

 山の魅力を再認識して、自分に合う山、新しい経験ができる山を自分で選んで歩くほうが楽しい。そんな山は、わが国にたくさんある。また、山に関するさまざまな事象を通じて、世界の山に共通することを発見できる。山の奥深さを知れば、有名な山だけを登るより、自分の目的にあった山を見つけて登る方が楽しいことがわかる。

 本書は、これから山歩き(山登りではない)を始めようと思う人、百名山を終えてどうしようかという人に、是非読んでいただきたいと思ってまとめた本である。

 百名山の弊害

 〇五年に加藤久晴さんが出版された『新・傷だらけの百名山』(新風舎文庫)の解説を書かせていただく機会があった。これは、『傷だらけの百名山』(解説 野口健)、『続・傷だらけの百名山』(解説 本多勝一)に続く三冊目で、ジャーナリストの目から、一山に集中する登山者、百名山を扇動するマスコミ、「皆で登れば怖くない」を助長する旅行会社などが、いかに山を破壊してきたかを鋭く叙述したものである。野口健さんは富士山などの山のゴミ拾いを実践している。本多勝一さんは日本人のブランド好きを評して`メダカ民族aと呼び、百名山などの文明批判を「週刊金曜日」でなさっている。私にお鉢が回ってきたのは、百名山による一山集中を避けるために、こだわりの山歩きを提唱していたことにあるらしい。信濃毎日新聞社が特集した記事をまとめた『北アルプストイレ事情』(〇二年 みすず書房)に〈……分散化を実践する格好で十年ほど前から「アンチ百名山」登りをしている。〉と紹介していただいた。百名山の惨状はこれらの本をお読みいただけば判るのでここには書かないが、富士山がゴミのために世界自然遺産に登録できなかったのが、これらのことを典型的に物語っている。

 〇六年七月の「サンデー毎日」には「百名山に登るのはヤメなさい」という特集があり、加藤さんの記事と一緒に「何だか深田さんが出題した試験で百点取ろうと一生懸命になっているような感じがしてねえ」「自分で基準を決めて山を探すんです」などの発言を載せていただいた。

 百名山を歩く人

 百名山の弊害は山だけでなく、それに登る人にもある。外国に日本百名山みたいなものはないかと探したが、イギリスのスコットランドにある三千フィート(千r)以上の山に登るモンローの山(ヒュー・モンロー卿の選んだ二八三山)があるくらいだった。海外の山に行って驚いたのは、山頂に山名標柱のある山はほとんどないことだった。頂上に登って山頂標柱と一緒に写真を撮るとさっさと下る百名山狂いの友人がいるが、彼が山頂を示すものがない山に登ったらどんなことになるかと思った。実際、残雪の西吾妻山で山名標識が雪の下になっていたら、「石井、ここが本当に頂上か」とうるさいので、「それなら自分で雪を掘れよ」といったことがある。

 ブランドでない山ほどおもしろい

 いまや県別百名山の立派な山頂標柱が置かれている山まで増えている。山梨百名山を例にすれば、こんな山まで百名山なのかと思うような山さえある。日本人のブランド志向のなせる業らしい。だいたい山を名山と非名山に分けるのは日本人くらいではないだろうか。

 知られていない山を選び、登るルートや方向を探して歩くのは、迷いや危ない場所などの危険を回避して頂上に達するというささやかな冒険といえる。名山のしっかりした道を道標に従い歩くのと違い、情報も少なく、道があるかどうかも判らないという未知の山を歩く探検的要素が多い。山歩きは本来、知られざる山を知るという楽しみがなせることではなかったか。だから頂上に行けなかったとしても、歩けた過程が楽しみになる。頂上を踏むという結果だけではなく、そこに達するまでの過程が歩く目的になるはずだ。その過程で出会った知られざる風景こそ感銘深いものになる。日本百名山のように、ガイドブックやビデオで見た風景を確認する山歩きとは、本質的に違うものがある。

 山の歩き方

 山は季節によって様相が異なる。夏は大勢登る山も、冬は閑古鳥も鳴かなくなる。夏は暑くて誰も行かない低い藪山も、残雪期には登山者が現れる。日本百名山を全て厳冬期に登った人は何人いるのだろうか。厳しさや困難を目的にした登山ならば、百名山完登者向けに「雪山百名山ツアー」があってもいいように思うが、目的(山頂を踏むだけ)が違うから商売にならないのだろう。〇八年二月の朝日新聞に「七大陸最高峰制覇は?」という記事が載ったが、一般登山者の手に届きそうな目標になったとある。ヒマラヤの八千r峰一四座の登頂者は増え、エベレストの登頂者は〇七年に約五百人、延べ三千五百人を超えたともあった。しかし、一四座で冬季登頂されたのは八座、残り六座を『氷の戦士』ことポーランドの登山隊が挑戦し続けていると「ナショナルジオグラフィック 日本版」(〇八年一月号)に書かれていた。山はクライマーを除けばプロとアマの区別が明確でないから、百名山を早く登るとか、最高齢・最若齢登山など、あまり意味のない競争をマスコミが取り上げることになる。厳しい山を目指すのをプロとすれば、岩登り・沢の遡行などはその範疇、スポーツのように速さや困難度を競う登攀・登山はプロ、山を楽しむことを目的にした山歩きや山を見る旅(トレッキング)・ハイキングなどはアマと考えてもいいのではないか。

 解脱して世界の山へ

 書名の「脱」は解脱の意味。解脱とは仏教の言葉で煩悩から解き放たれて、自覚すること。解脱するために坊さんたちは修業する。ここでは日本百名山という煩悩から解脱し、広い山の世界の基礎知識を知るくらいの意味。日本には二万六千以上の山があるのに、たった百山のいくつ登ったかを云々しているなんて。最近はオープンスカイとか、空の鎖国から開国へという風潮が格安の航空運賃を生み、以前より安く海外へ行けるようになってきた。私は「海外の山なんて」と馬鹿にしていたが、九五年にイギリスに留学した鈴木保己君の誘いで海外の山に登ったのがきっかけになり、一四年間毎年最低一回は海外の山歩きをやることになった。「井の中の蛙、大海を知らず」であった。

 こだわることの意味

 山歩きに限らず行動を起こすには、何かのこだわりがある。そのこだわりが大勢の人が考えるものだと、新しい発見はない。山に関しては日本百名山は情報過多といえるくらい、判りすぎて未知の楽しみはなくなっている。観点を変えて、誰でも考えつきそうだが、やりそうでないようなこだわりを持って山を探すと、聞いたこともない山が次から次へと見つかる。かつては書物でしか情報源がなかったから、知られざる山の情報は少なかった。しかし、インターネットの普及で、こんな山がと思うような知られざる山の書き込みを見ることができる。その多くはどこをどう登ったというものばかりで、地図が添えられているものは少ない。それでも、知られざる山に登り易くなった時代となった。

 諦めず、しつこく、こだわりを追いかけてこそ意味がある。

 自分の力で歩き、自分で納得する

 山歩きは自分の知恵と体力で歩き、自分でここまでできたからと納得することである。そのためには、他力本願のツアーや登山会に参加して登ったのでは意味がない。登る山を自分で選び、どのルートを歩き、何を見て帰るのか、全てを自分で決めて実行する。それが山歩きの楽しみである。

 お花畑を見て頂上に行かずに帰るのもいい。沢を遡行してそのまま下りるのもいい。雨の林道歩きが好きなら、びしょ濡れで歩くのもいいが、せっかくの山だから、雨なら晴れを待って歩くのもいい。基本は自由、予定は未定が私流山歩きである。

 こんな山歩きをしたいと思う方のお役に立てればと思い、項目の欄外に登山年と歩行時間を入れ、山探しの手助けになるデータ一覧表を巻末に載せた。

●本文抜粋

山の魅力

 山が人を魅惑する要素は書き尽くせない。その形と色、そこに生きる動植物、人との関わりなど、実にさまざまなものが混在しているからである。無機物の山が姿や色彩を変えるはずはないのだが、被覆植物や雨・雪などの自然現象で、四季おりおりに姿を変化させる。万年雪や氷河に覆われるヒマラヤ・アンデス・ロッキー山脈の六千m以上の山々の姿は永久不変のように思われるが、地球温暖化の影響で氷河が溶けて氷河湖が拡大し、不変ではなくなりつつある。

 四季の変化がある日本の山は、七変化のように姿を変え、我々を楽しませてくれる。植物被覆のないヨーロッパアルプスの四千m級の山々は険しい岩山で、それなりに美しいが四季の変化は乏しい。変わらない姿がいいと思う人もいれば、さまざまな姿に変わるほうがいいという人もいるだろう。魅力とは人によってさまざまに受け取られる。

 どれが好きかを別にして、山の魅力をいくつかの要素から考えてみたい。まずは山容で、火山活動と浸食作用(隆起運動が原因)でつくられた違いは形を異にする。難しくいうなら、地質学や地形学の分野だが、そんなことに関係なくその姿を見ていこう。地質が色に影響している山もあれば、それを覆う森林が山の色になっているものもある。針葉樹林は一年中変化がないが、広葉樹林は四季に色を変え、さまざまな姿を見せる。東京周辺の奥武蔵・奥多摩の山は杉・檜林が多く変化がなく暗くて花粉症の元凶だから、伐採してしまえという山仲間がいる。その気持はわかるが、下山中に杉林になると麓は近いと安心できるから、私はそこまで嫌いではない。

 山は人にとって信仰の対象であったり、農作業の目安になったりと、人間と長い間関わりを持ってきた。山の巨大さが人間の小ささを、不変の姿が人生の短さを感じさせ、山の伝説を生んできた。富士山と八ヶ岳の高さ比べの伝説のどちらがえらいということを、ユーモラスに語るのは日本人らしい。神や仏が住むと考え、山頂に祠や社の置かれた山は多く、参詣路として山道に合目石・丁目石・石仏などが並ぶ山もある。戦場になった山もあれば、前哨基地として斥候や狼煙場になったものもある。米相場を米作地に伝えた旗振り山が続いていた地域もある。また、街道歩きの目印となったランドマークの山を江戸時代にまとめた『日本名山圖會』(谷文晃)が日本最初の山の本ではないだろうか。伝説や歴史を知ると山への興味がさらに増える。

 山を歩くと動植物に出会う。鳥や獣は一瞬の出会いで写真や絵にする機会は少ないが、花や樹木はゆっくりと観察できる。花を目的に山歩きをする女性は多い。妻もそうで、花が見られなかった山はつまらなかったとなる。花がどこにあるかは書くべきでないと私も思うが、その楽しみに温泉を加え、独断と偏見の「花と温泉の山一〇〇」をまとめてみた。

 山頂が目的で、通過地点の峠の印象は忘れたという人は多いようだ。峠と峠路ほど人間臭いものはない。それは山の歴史にもつながる。そんな観点から山の峠を見直すとおもしろい。山の魅力の要素はまだまだあるだろうが、浅く広くまとめてみた。各項目のデータを巻末に一括して掲載し、項目番号と資料の番号が一致するようにした。

●見開きサンプル




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