| 白山書房の本紹介 |
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山好きが高じて大学で林学を学び、卒業して森林・林業に関わる仕事に携わりながら、独りで、あるいは友と一緒に趣味の登山を続ける。やがて道のある山よりも、地図を読みながら薮をこいて山頂に立つことに愉しさを見い出してゆく。しかし、死線をさまよう体験を二度もすることに……。父も山で遭難し、父の遺体を自らが森の遠くで発見する。新潟の山と半生を綴った紀行集。 ●著者プロフィール |
●森の遠くで/目次 |
| はじめに 高地肺水腫 白馬岳 [昭和六二年夏(武田春代)] [高地肺水腫その後] 雨の天狗の庭 飯豊本山・大日岳 オサバグサ咲く水場 大朝日岳 結露したツェルト 屏風岳 はじめての沢登り 八海山 厳冬期東吾妻スキーツアー 東吾妻山 完成した八ケ岳縦走 赤 岳 [ウメバチソウ咲く谷] 新雪に助けられた山 五剣谷岳 初春の日本海を望む低山 能化山 高所恐怖症 明星山 [心 音] 藪こぎに目覚めた山 大兜山 雪中ビバーク 蒲萄山 [真っすぐ登る] [携帯電話] [真登が生まれて(武田春代)] |
自然と対峙する 湯蔵山 割れたコンパス 鹿森山 初冬に咲く椿 鷹取山 フキノトウ 大平山 下田山塊の孤峰 毛無山 憧憬の山 矢筈岳 親子三人で歩く 立 山 掘り起こされていた三角点 丸山・石丸山 天然スギの藪こぎ 笠倉山 あきらめた本峰 烏帽子山 念願かなった縦走 粟ケ岳 読図ミス 泥又川 海谷山塊の鋭峰 烏帽子岳 山形県境の藪こぎ 重蔵山 [季節の移ろいに笑顔忘れず] 蒲萄山地縦断 新保岳 杁差岳の展望台 黒手ノ峰 嘔吐下痢症 毛猛山 おわりに |
●「高地肺水腫」より抜粋 <略> 三日ほどして私は一般病室に移された。私がそれまでいたところは信州大学医学部付属病院のICUと呼ばれる集中治療室で、私は「高地肺水腫」という高山病だった。一般病室に移されてからしばらく流動食だったが、三、四日すると普通の食事になった。父と弟が帰ったあと、母はまだ私に付き添っていたが、「もう大丈夫だから帰れ」と先生に言われて母は家に帰った。 やがてお盆になり、私のザックと登山靴が白馬岳から栂池自然園まで降ろされてきたと家に連絡があり、父と弟が荷物を取りに来るついでに松本まで来てくれた。父と弟は松本に一泊すると言うので、私は弟に「『孤高の人』を買ってきてくれ」と頼んだ。翌日頼んだ本を持ってきてくれた弟と父はそのまま松代に帰った。ところが私がその本を読んでいると、「またこんな本読んで!」と看護婦さんに叱られてしまった。登山を趣味としながらも、私はこれまで新田次郎の本は一冊も読んでいなかった。しかし、単独で山に登り、とんでもない事件を起こしてしまった私には、なぜか「単独行の登山家」と言われる加藤文太郎の単独で山に向かう心情を確認したかったのである。 お盆が過ぎてからはすっかり体調も良くなり、いつでも退院できると思っていた。しかし珍しい病気なのか、病院ではいろいろな検査をしてなかなか退院させてくれなかった。 高山病とは、生体が高地という低圧、低酸素、低温環境に曝露され、さらに運動負荷が加わって発症するホメオスタシスの破綻である。そして、高山病の中で最も重症なタイプである高地肺水腫とは、肺組織に強く出現する浮腫で、激しい呼吸困難を訴え、また、しばしば頭痛や意識障害を伴い、手遅れになると死に至ることもあるという恐ろしい高山病だった。処置としてはとにかく低所に降ろすしかないのである。またこの高地肺水腫はなぜ起きるのか不明であり、どのような体質の人がなりやすいのかもわかっていないらしい。そのため信州大学医学部付属病院には高地肺水腫研究班という研究グループがあり、発病メカニズムの解明に努めている。日本では高地肺水腫になる人は主に登山者で、その数は多くなく、一年に信州大学医学部付属病院に運ばれてくる患者は二、三人しかいないという。 八月二〇日に院長の診察があり、二一日に漸く退院できることになった。そして小山先生から「普通の人は酸素が薄くなると無意識に多く空気を吸い込もうとするが、あなたはそうならないようだ」と検査の結果を報告され、「また高い山に登るとなるかもしれませんよ。でもまた登るんでしょう。またなったら山から『川嶋先生!』と叫びなさい」と言われ退院した。<略> |