| 白山書房の本紹介 |
山ありて幸い 加藤司郎著 1,500円(本体)
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第1部 さらば雁峠 ●著者プロフィール |
| 第1部 さらば雁峠「雁峠山荘その後」より <略> 昨日、駅のホームで電車を待っていたとき、カバンを下げた初老の男の人が「ふるさと」を歌っていた。周りの人は訝しそうな眼をして、そのサラリーマン風の人を遠巻きにしていた。私もその人と同じように大きな声で「兎追いしかの山、小鮒釣りしかの川」と歌いながら登っていった。 駅のホームで男が歌っていた「志を果たして、いつの日にか帰らん」という歌詞がなぜか胸にこたえたが、彼も山にきて思いっきり大声で歌えば心が晴れるのに、山なら周りの人から怪訝な目で見られずに済むのにと思った。山では過去の思い出や、夢や希望がふだんよりずっと身近に感じられる。特に一人の山では、そうしたものと現実の自分が一体になる時すらある。 笠取小屋に二時頃着いた。お茶をいただいて世間話をしていると、雁峠に数百万円かけて新しく案内板と指導標、ベンチが作られたと言う。私は全身の力が抜けるような気分になり、駆けるようにして雁峠へ急いだ。 何たることか、私たちが大切に護ってきた草地や指導標は無残に破壊され、グロテスクな構造物が無遠慮に並べられている。環境庁や埼玉県の役人の山の自然に対する見識は、私たちがいままで批判してきた水道局どころではなく、はるかに低劣だ。彼らは『山の自然の中(国立公園特別地域)では、人工物はなるべく目立たないように設置するべきだ』という原則すらわきまえていない。彼らは、まるで街なかに広告塔でも建てるつもりでいるようだ。私も小役人の片割れなので、よけい呆れるやら、情けないやら、憂鬱な気持になって山荘に入った。<略> | |